福島からの声



2023年分

福島からの声 2023年12月号

今回の「福島からの声」は、詩人みうらひろこさんの詩集「ふらここの涙~九年目の福島浜通り~」から「翡翠」をご紹介させて頂きます。

11月の場の研究所勉強会では、「場所と居場所」をテーマに会が進められましたが、そこでは、「存在者の世界」と「存在の世界」の違いについても、皆さんと考える時間を持ちました。詳細については、紙面上、割愛させて頂きますが、福島の問題に置き換えて考えると、除染し、インフラや建物が復旧して人が戻ってくることだけを復興と考えて進めていくのは「存在者の世界」を中心にした考え方であると言えます。

これに対して、原発事故が起こる前のたくさんの人々、生きものたちの〈いのち〉の与贈によって〈いのち〉のドラマの舞台としての歴史的に続いてきた温かな故郷の姿を描きながら、未来を創っていくことが「存在の世界」としての本当の復興ではないかと私は思うのです。

「存在者の居場所」を単に復旧しただけでは決して戻る事のないもの。

「共存在の場所」としての福島の復興と未来を考えていくことは日本人全体に突き付けられた課題でもあると思います。

みうらさんの詩に詠われた翡翠(かわせみ)の姿は、「存在の世界」から私たちの心に向かって光を放ってくれている存在のように感じられるのです。

本多直人

 

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福島からの声 2023年08月号

今回の「福島からの声」は、詩人みうらひろこさんの詩集「ふらここの涙~九年目の福島浜通り~」から「避難解除」をご紹介させて頂きます。

東日本大震災、福島第一原発の事故から増え続けている放射性物質の汚染水。

その処理水の海洋放出が、漁業を生業とされている方はもちろん、日本、そして地球全体の環境問題として未来への不安を残したままで進められることになりました。

国や国際機関のいう「安全」という言葉への信頼。

どれほど科学的根拠を並べられても、震災後の厳しい現実の中で今も暮らしを営んでおられる方々には届かないと思います。

一人ひとりの〈いのち〉を豊かにしていけるような居場所づくりが出来ないままの復興は本当の「安心」にはつながっていきません。

今回、掲載させて頂いた詩「避難解除」には、この被災地を外から見た視点ではなく、生活者の舞台に立って内側から訴えていく力があると思います。「避難解除」によって、インフラを整備し、住宅を再建し、安全を叫ぶだけでは、豊かな居場所をつくることは出来ません。

本当に取り戻していかなくてはならないものは何かが、この詩の中から聞こえてくる「民の声」によって厳しく問いかけられているのです。

 

本多直人

 

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福島からの声 2023年04月号

今回の「福島からの声」は、コールサック社より発行されている冊子、コールサック(石炭袋)112号より、詩人みうらひろこさんの詩「めまぐるしい日々」をご紹介させて頂きます。

ロシア軍によるウクライナ侵攻によって多くの方々が命を脅かされ、故郷を追われ、居場所を失いました。〈いのち〉の居場所を奪われた苦しみ。それは決して推し量ることの出来ない複雑さと深さを持っています。

今回のみうらさんの詩を読ませて頂いていると、原発事故で不条理に故郷を追われ、苦しい生活を余儀なくされている方々の、言葉に尽くせない想いが決して福島だけに止まることなく、紛争や災害で〈いのち〉の居場所を奪われ、存在の苦しみの中にある世界中の人々への深い共感へとつながっていることを感じさせられ、心を打たれています。

地球という私達の大切な〈いのち〉の居場所を守り、育みながら、互いを認め合い、共に生きていくためには、この深い共感力こそが大きな力になっていくのだと思っています。独裁者にも原発事故を起こした企業にも決定的に欠けていることです。

本多直人

 

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福島からの声 2023年01月号

今回の「福島からの声」は、詩人みうらひろこさんの詩集「ふらここの涙~九年目のふくしま浜通り~」から「陸奥(みちのく)の未知」という詩をご紹介させて頂きます。

ロシアによるウクライナ侵攻は、ますます長期化の様相を呈し、新型コロナウィルスの蔓延も規制緩和が為されてきたとはいえ、まだまだその終息は見えてきません。

こうした問題は世界経済の混乱だけでなく、未来の環境問題にも大きな影を落としています。

東日本大震災から12年を迎えた今、私たちに何が問いかけられているのでしょうか?

日本ではCO2問題を盾に取っているかのように、原発の再稼働の機運が高まりつつあります。先日もニュ-スを見ながら「空のCO2が数値の上で少なくなれば、大地が汚染され、故郷が奪われ続けても良いのか!」と思わず声を上げてしまいました。

福島の原発事故の問題に学ばず、深い反省の見えない原発依存回帰のような日本の動きには、強い怒りと憤り、そして情けなさすら覚えます。

「福島からの声」は私たちの〈いのち〉の居場所からの声です。私たちはこの声を風化させることなく、一人ひとりの〈いのち〉の問題として世界に警鐘を鳴らし続けていく努力をこれからも決して怠ってはならないと思います。

みうらさんの今回の詩、「陸奥の未知」を読み返しながら、そのことを改めて感じさせられ、身が引き締まる思いでこの文章を書いています。

本多直人

 

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