場の研究所メールニュース 2016年11月号

□━□━□━□━□━□━□━□━□━□━□━□━□━□━□━

場の研究所 定例勉強会のご案内

□━□━□━□━□━□━□━□━□━□━□━□━□━□━□━

 

 

ホームページ:http://www.banokenkyujo.org/

 

 

------------------------------------------------------------

「〈いのち〉を居場所に与贈して〈いのち〉の与贈循環を生み出そう」

〈いのち〉とは「存在を続けようとする能動的な活き」である。

                                  (清水博)

------------------------------------------------------------

 

◎10月の勉強会テーマは「シンポジウムの振り返りと今後の方向性」

ということで、日時:10月28日(金曜)に開催しました。

 

15時から17時までは、シンポジウムでの講演の中で,稲葉俊郎先生と

影山知明様のテーマについて、当日のプレゼ内容をベースに前川理事が

説明いたしました。

 

テーマ

1『身体を癒す調和の〈場〉』東京大学附属病院 医師 稲葉俊郎

 

2『〈場〉をつくる健全な負債感』クルミドコーヒー 店主 影山知明

 

この内容ですが、シンポジウムでは時間が限られていて資料をゆっくり

見ることができなかった方も、理解度が深まったと思います。

 

1では特に、稲葉先生の講演では、身体の全体性、こころの全体性、

いのちの全体性という内容、また「治す」のではなく身心のバランスで

「治る」点は興味深かったと思います。

 

そして未来の医療と言う内容で、<たての関係>から<よこの関係>

への対応が重要というのは、清水先生の〈いのち〉の自己組織に

よって生まれる「〈いのち〉の与贈循環」と「おたがいさま」に

共通していると思います。

 

<たての関係>

・他者は敵

・「あたま」支配。「しぜん」と分断

・欲望、支配、優劣意識、勝ち負け、評価、賞罰

・他者の価値観(欲望)にあわせる。

・自分と他者の課題を混同。相手・課題に土足で入る。

 

<よこの関係>

自己受容(肯定的なあきらめ)⇔他者信頼(無条件)⇔他者貢献

が重要

・他者は仲間。同じでないが対等

・「こころ」「からだ」「しぜん」の声

・相手と自分の課題は違う。評価しない。

・「役に立つ」:行為のレベル・存在のレベル

・ありがとう(感謝の言葉)、うれしい(素直な喜び)、

助かったよ(お礼・言葉)

 

そして、最後にまとめられたメッセージは

◆からだには宇宙と生命の歴史がすべて詰まっている。

◆いのちの多様性と調和(美)の歴史

◆ 「いのち」の根源は植物性臓器(植物世界)が支えている。

◆からだ・調和・場・メタファー。ひとりひとりの体の捉え方が、

 社会のあり方とつながる。

◆からだやこころの叡智は、伝統芸能・芸術・道、美・世界にも

秘められている。

◆いま生きているすべての人は、宇宙の歴史の最先端として、

生命・未来を託されている。

 

即ち、近代医学では「悪を撃ち殺す」という考えのもとで治療を

おこなっている。

 

しかし、「からだ本来の自己組織性を強めるという方向の医療も

考えられる」という、意味深い内容で、あらためて医療のみならず、

現代の問題を解決するための一つの提案であると感じました。

 

2については、西国分寺の喫茶店クルミドコーヒーの影山様から、

「健全な負債感」というキーワードが説明され、「与贈」に繋がる

大変良い表現でした。

 

キー-ポイントは下記のポイントかと思います。

・お客様を「消費者的な人格」→「受贈者的な人格」として見る。

・お客様は収益のための手段では無く目的で有る。支援し合う関係

・仕事に人をつける→人に仕事をつける

・お金とは 人の仕事を受け取るための道具

・受け手が贈り手を育てる

 

即ち、地域を限定して、その地域のお客様に経済的なバランスを

崩さない範囲で与贈することがお客様に健全な負債感を与える。

 

そして、お店の好意的な評価を地域社会に広めると共に、お客様の

再来を招き、また従業員にも、それぞれの個性を活かして主体的に

活く意欲を与える」と言う考え方です。

 

さらに、これからの経済を生み出すためには地域社会における

与贈循環が大切であるという、具体的な例としてわかりやすい

内容でした。

 

実際にお店に行くと、お話のとおり、ゆったりとした雰囲気。

 

従業員の気持ちの良い対応。

 

くつろげるレイアウト。

 

クルミとコーヒーのおいしさなど、影山さんのコンセプトを感じて

頂けると思います。

 

 

17時からは、清水先生の講演内容を追加資料も交えながら説明

して行きました。

 

テーマは『共に生きていく原理を求めて』でした。

 

「与贈循環による〈いのち〉の自己組織化と与贈共同体

(二領域的共存在世界)への転回について」

 

清水先生の主テーマは

○理論の創造: 諸事実の統一的な説明を可能にする仮説づくり

 

生活体(生きていくもの)に関する4つの仮説

(1)生命は存在しない。存在しているのは〈いのち〉。

  〈いのち〉=存在を維持しようとする能動的な活き

(2)生活体は〈いのち〉を生み出しつつ、

   その能動的な活きによって存在していく。

(3)生活体には、生み出した〈いのち〉を、

   自己が存在する居場所に与贈する与贈主体がある。

(4)複数の生活体から居場所に与贈された〈いのち〉の活きが

   一定の閾値を超えると、〈いのち〉の自己組織がおきて

   居場所の〈いのち〉が生成する。

 

という仮説を提案。

 

それを説明していく内容でした。

 

この内容は,前回のメールニュースで紹介させて頂いたので、

先生からの追加ポイントのみをお知らせします。

 

☆当日の清水先生からの追加コメントは下記の通りです。

 

〈いのち〉の自己組織が暗在的であって、人びとの外側から測定

できないということは、それが人びとの内在的な過程を重要な

ステップとして含んでいることを意味している。

 

その内在的な過程は、深層意識が利己的な活きをする

末那識から、

さらにその深層にある(自利利他的な活きをする)阿頼耶識へと

集団的に移ることではないかと思われる。

 

〈いのち〉の与贈という行為は阿頼耶識が意識の根底ではたらく

ことにより生まれると考えられる。

 

つまり、与贈は深層意識が阿頼耶識にあることを外へ示す

サインであると思われる。

 

言い換えれば、深層意識が末那識から阿頼耶識へと移行した

ことを外へ示すのが与贈である。

 

すると、受けたその与贈が刺激となって、同じ場所に存在している

人びとの深層意識に末那識から阿頼耶識への移行がおきると

考えられるのである。

 

この移行が集団的におきるためには、刺激となる与贈の量

(密度)に一定の閾値があると考えられる。

 

 

念仏は自己のうちに阿頼耶識の活きを呼び起こして、それまで

末那識の活きのもとで意味づけられていた様々なできごとを、

阿頼耶識の活きの下で意味づける活きをするのではないかと

考えられる。

 

つまり、阿頼耶識のコンテキストに相当する「循環のコンテキスト」

のもとで、〈いのち〉の与贈循環に関係づけてできごとを見る道を

開くのである。

 

中村久子の生き方はこのことを示している。

 

阿頼耶識への深層意識の移行の刺激となるのは、クルミドコーヒーの

影山知明さんの場合は、人びとが与贈を受けることによって生まれる

「健全な負債感」であり、親鸞の場合は法蔵の活きから受ける

「忝さ」(かたじけなさ)なのである。

 

深層意識が末那識に留まっているときは従因向果の活きが生まれ、

阿頼耶識へ移行がおきることで従果向因の活きが生まれるものと

考えられる。

 

人間の世界の現状を見ると、「正しいこと」を従因向果で示す試みは

成功せず、「善いこと」を従果向因で示すことが必要になってきている。

 

西田幾多郎の『善の研究』に代わる新しい地球規模での「善の研究」が

必要になっている。

 

それには、この深層意識における移行の問題が重要になってくるだろう。

 

 

☆土井善晴先生のコメント

今回勉強会に参加された,料理研究家の土井善晴様から、大変興味

のあるお話があり、一部を紹介いたします。

 

食べ飽きることのない一汁一菜の料理について、具体的な研究をした

ところ、そのような一汁一菜の料理は与贈によってつくられ、自然の

生きものと人間の間に〈いのち〉の与贈循環を生み出すものであることが

分かった。

 

お料理の美味しさの原点は「与贈」である。

 

そのためには、見返りを求めず、とらわれのない柔軟な心を持って素材に

向かいシンプルに料理を作る。一汁一菜がベース。

 

そのような料理は食べるときも嬉しいが,また〈いのち〉の与贈循環が

おきるために、身体の中を細胞が喜んでいるように感じる。

 

そのような料理を食べ続けていくことで健康を維持していくことができる。

 

(参考:土井善晴『一汁一菜でよいという提案』(グラフィック社)

 

 

器についても、飾らないシンプルな道具と言われる「器:うつわ」が

便利で何を盛っても美しくできる。

 

その道具の器の裏側(底側)が美しいと言うのも民芸の素晴らしさであり、

作り手の与贈では!

 

「侘び」「寂」(わび、さび)は、器が持つ与贈ではないか?

 

そして、茶道を武士がなぜ嗜んだかというと、常に自分のいのち自身が

不安定な時代、素朴な茶器に、緑の抹茶ができ上がることで、

飾り気のない器から緑の生命が生まれてくるところに、自分を

重ねていたのでは?という話も出ました。

 

以上のように、大変、素晴らしい充実した勉強の『場』が

作られたと感じました。

 

ご参加頂いた方々有り難うございました。

-----------------------------------------------------------

 

■勉強会のご案内

 

テーマ:「おたがいさま」「おかげさま」について

 

日時:11月18日(金曜)17時から19時30分まで

 

講師はエーザイ株式会社の高山 千弘様の予定です。

 

勿論、清水先生からはこの内容に対するコメントがあります。

 

スタートは従来通り15時からワイガヤ的に議論を進めて、

17時より勉強会を行います。

 

場所:特定非営利活動法人 場の研究所

 

住所:〒170-0004 東京都豊島区北大塚 1-24-3

 

Email:info@banokenkyujo.org

 

参加費:会員…5,000円 非会員…6,000円

 

申し込みについては、毎回予約をお願いいたします。

  (なお、飛び入りのお断りはしておりません。)

---------------------------------------------------

 

 

■編集後記

今回はシンポジウムの内容のレビューでしたが、

内容を繰り返し議論することも、理解度を向上するためには

大変良い機会だったと思います。

 

また、清水先生や土井善晴様のお話がいろいろ加わり、

幅広い場の議論になったことに感謝です。

 

次回は、「おたがいさま」「おかげさま」をテーマに、

従来通り、第3金曜日の11月18日(金曜)に勉強会を開催いたします。

よろしくお願いいたします。

 

 

特定非営利活動法人 場の研究所

住所:〒170-0004 東京都豊島区北大塚 1-24-3

電話・FAX:03-5980-7222

Email:info@banokenkyujo.org

ホームページ:http://www.banokenkyujo.org