場の研究所メールニュース 2017年5月号

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「〈いのち〉を居場所に与贈して〈いのち〉の与贈循環を生み出そう」

〈いのち〉とは「存在を続けようとする能動的な活き」である。

                         (清水博)

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2017年5月のメールニュースをお届けいたします。

 

◎4月はテーマ:「<いのち>の医療(徒手療法から見えてくるもの)について場の研究所にて開催。

講師は仙台在住の徒手療法家の本多直人様から「手当と場の理論」についてお話をいただきました。

 

15時から17時までは、前回の勉強会の「人工知能の哲学」の振り返りと、場の理論に

ついて清水先生から考え方の例をいくつか説明して頂きました。

 

◎清水先生コメント:

生きものとその環境の間には、生きものが環境に合わせて生きていけば、環境の方も生きものの生き方に合わせて変わってくるという相互整合的な活きがあります。このために、環境が生きものと主客非分離な居場所に変わってくるのです。このことは生きものの状態を「鍵」とし、環境の状態を「鍵穴」とすると、最初は鍵と鍵穴はあまり合わなくても、使っているうちにやがてぴたりと合う状態になる相互誘導合致という変化によって表すことができます。

 

鍵には能動的に環境に働きかける性質があるのに対して、鍵穴の活きは受動的で、鍵の活きかけを待って、それを認証するか否かを決める「お役所」のような性質をもっているのです。鍵のような能動的な活きを述語論理的な活きと言い、鍵穴のような受動的な活き

を主語論理的な活きと言います。

 

人工知能と人間の知能の差を一口に言うと、人工知能は鍵穴のように主語論理的な活きをするのに対して、人間の知能は鍵のように述語論理的な活きをするという原理的な違いがあります。人と人の関係は鍵と鍵の関係であり、人間の他者に対する思いやりとか社会性のような共存在性はその述語論理的な性質から生まれてくるのです。

 

人間が他者の生命を気遣いながらドライブするのも、この述語論理的な活きから生まれてきているのです。他方、人工知能は原理的に主語論理的な活きしかできないことを考えると、人工知能によって自動運転をする自動車が安全運転をできるとは、私にはなかなか

思えないのです。人びとの〈いのち〉がかかった問題ですから、もしもできると考えるのなら、その原理を示さなければなりません。

 

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その後、「<いのち>の医療(徒手療法から見えてくるもの)」と言うテーマで、本多先生からのプレゼンがありました。

 

<本多先生のプレゼンテーション内容>

3つのテ-マ

○居場所づくりのケア-について

○共存在の深化と徒手療法

○「〈いのち〉の医療と手当

 

本多先生:

 「私たちがケア-の技術について考えるときには、どうしても最初に技術(徒手療法)ありきから出発してしまうことが多いのですが、実はそれは必ずしも豊かな居場所づくりにつながっていくとは限りません。まずは、最初に〈いのち〉の舞台としての「居場所」があって、その居場所の〈いのち〉を育むように、共存在を深化させていくということ

が大切なのです。そしてその舞台の中に、それぞれの技術が位置づけられるならば、〈いのち〉の医療の技術もまた創造を生み出しながらより深まっていくものと思います。

 

 〈いのち〉を観る目をもって触れる手は、私たちの内側にある共存在に向かう心を深め、居場所の〈いのち〉をより豊かにしていく道へと導いてくれるように思います。それは、私たちの仕事のやりがいや生きがいにもつながってくるはずです。私自身も、これまでの臨床での体験と学びの中で得られたことについて、出来る限り忠実な表現に努め、日本から世界に向けて発信のできる〈いのち〉の医療の技術としての手当(徒手療法)を未来に描きながら、これからの一歩を重ねていきたいと思っています。」と述べられています。

 

場の研究から生まれた〈いのち〉の医療を、これからの私たちの暮らしの中で未来に向けてどのように生かし、そして実践的なかたちにしていけば良いのか?今回のお話では、その問いかけが為されていたのではないかと思います。

 

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東日本大震災の後の医療の実際の現場での実体験をベースにしたお話で説得力があり

参加メンバーも感動を受けました。話題の中には、人間の持つ呼吸(横隔膜の動き)や

脈泊、頭部の波動のバランスが取れると、体調の回復が得られる事がある。その際、患者

さんがその場(治療室)と相互誘導合致がなされたときに変化がおきることがある。人間

が場によって、生きて行くエネルギを受けることがあるという、印象深い話でした。

 

参加された方々に感謝いたします。

 

◎清水博先生からのコメント

 病気に苦しむ人びとを思いやる、本多直人先生の温かい思いやりと真摯な態度にはこころを撃たれます。そしてそれが〈いのち〉の医療を開こうとする熱い思いへとつながっていきます。長い年月にわたるお付き合いから、私が感じている本多先生の人間像を一口で言えば「嘘を言えない人」です。

 

 私たちの意識の活きを、大脳新皮質の活きに一応対応させて考えてみると、その意識が感じる「深い存在」とは、新皮質の基底になっている旧皮質、さらには新旧両皮質を含めて中枢神経系を支えている身体の「内在的な活き」に相当します。ここで意識の裏側にあるために、意識によって直接的には自覚できない活きが身体の内在的な活きです。また意識によって自覚されている身体の活きは「外在的な活き」です。したがってこのことから、「共存在を深める」とは、分かりやすく言えば、人の間のつながりを、脳の活きがつくる外在的なつながりから、身体の内在的活きによるつながりへと、つながりのあり方を移していくということです。そのようなつながりには、人間以外の生きものとのつながりも

含まれます。

 

 身体の間に内在的なつながりが自然に生まれることを、私は「〈いのち〉の自己組織」と名づけています。ここで言うまでもなく、〈いのち〉の自己組織はマニュアルメディスンにとって最も重要な活きです。また人間の身体を構成している莫大な数の細胞の活きの間のつながりも内在的ですから、〈いのち〉の自己組織です。〈いのち〉の自己組織は、(意識で直接的に捉えられない)暗在的な活きであることから、ちょうど科学的な研究の陰になるために、人間が健康に生きていく上でもっとも重要な基盤でありながら、科学によってはほとんど解明されてこなかったのです。

 

 しかし本多直人先生が強調されているように、生きものはその〈いのち〉の自己組織によって、居場所の〈いのち〉を自己組織しつつ、その居場所の〈いのち〉に包まれて、はじめて安定に存在することができるのです。これが二重生命、すなわち〈いのち〉の二重構造です。私たちについて言えば、その生きものとは人間であり、またさらにその身体を構成している60兆にもおよぶ多数の細胞です。私たちは居場所と人間、人間と細胞という二重の二重生命の接点になっているのです。病気とは、この二重の二重生命によって生まれる居場所、人間、細胞の間の〈いのち〉の共存在性が崩れて不安定になることなのです。その安定性を回復するためには、〈いのち〉の与贈循環を支援することが必要なのです。

 

 

■5月は場の研究所の勉強会は中止し、ダーウィンルームのイベントとして清水先生が講演をされます。

是非、議論を皆さまと交わしたいと思います。

テーマ:仮題「清水ゼミ:創造的な思考の方法について」

日時:5月27日(土曜)18時から21時までの予定です。

場所は下北沢のダーウィンルームです。

 

若手のメンバーの参加も多くありますし、環境が変わると違った議論ができると思います。

是非、ご参加ください。

 

◆ お申込み先

好奇心の森「ダーウィンルーム」担当:清水久子

〒155-0032 東京都世田谷区代沢5-31-8

tel & fax :03-6805-2638 mail:darwinroom@me.com

営業時間:12:00 - 20:00/不定休あり

http://www.darwinroom.com/

●参加費:5,000円

 

■編集後記

 今回は、本多先生より、医療と場の理論について説明をしていただき、大変感動する事ができたと思います。

 

 次回のイベントは、第4金曜日の5月27日(土曜)に開催いたします。テーマが仮題「創造的な思考の方法について」です。

ご参加のほどよろしくお願いいたします。

申し込みは、前述のダーウィンルームへお願いします。

なお、6月は従来通り、場の研究所での勉強会を第3金曜日に計画中。

 

今後、非定期にはなりますが、年間の計画に、ダーウィンルームでの「考える」をテーマにした仮称:清水ゼミを何回か開催していくことを一緒に検討中です。よろしくお願いいたします。

 

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