場の研究所メールニュース 2017年10月号

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場の研究所 定例勉強会のご案内 

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ホームページ:http://www.banokenkyujo.org/ 

  

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「〈いのち〉を居場所に与贈して〈いのち〉の与贈循環を生み出そう」 

〈いのち〉とは「存在を続けようとする能動的な活き」である。 

                         (清水博) 

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2017年10月のメールニュースをお届けいたします。 

  

◎8月は夏休みで勉強会はお休みさせていただきました。

9月にはお知らせしたように、9月16日(土曜)に場の研究所のシンポジウムを開催し、勉強会は中止といたしました。

従って、今回のメールニュースはシンポジウムの内容のご紹介をさせていただきます。

テーマは『与贈が開く、日本的創造の世界』でした。約80名の参加者で、13:30より18:00時と長時間でしたが場の論理の中の「与贈」の実例や実践のお話もあり、大変好評でした。

特に、清水所長の日本民族の特徴をベースにした与贈についての考え方、今われわれはどう生きて行くか?という話。

2番目の料理研究家の土井 善晴氏のお料理における与贈の心。

3番目のエーザイ株式会社執行役員知創部長、高山千弘氏からはエーザイが世界の中でどう患者さんと寄り添い、与贈の心で展開しているか。その精神をいろいろな地域でのコミュニティーへ活かしていくお話など、幅広い情報や議論が展開されました。

今回のそれぞれの講演の主要内容をご紹介します。

少々長い内容ですが、シンポジウムということもあり、貴重な話が多く聞けましたのでぜひ、ゆっくりお読みください。

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1. 『日本的創造の原理としての与贈と逆対応』  

      NPO法人場の研究所 所長 清水 博

実際には副題として「日本民族の救済と創造の原理について」

ということで講演が始まりました。

 

まず、日本民族の分析から⇒

1.地震、津波、台風などの大きな天災を世界でも類を見ないほど絶えず受ける国

2.島国であることから他の国からの侵略を受けたことはほとんどない。従って、日本では、

人間の力を越えておきる天災の力による被害を乗り越えるための協力と柔軟な対応が重要である。固定した方法やルールに縛られていては、それができない。

他方、ヨーロッパ大陸の諸民族はこの逆の状態にあり、「民族的境界条件」に対して諸民族の大きな努力が歴史的に注がれてきた。

西洋では、その逆にルールの堅持と明確な対応が重要になる。

このような状況から、日本では(即興劇な)ドラマ型の生存原理、西洋ではゲーム型の生存原理が生まれる。具体的には前者では、ある即興劇の舞台が与えられたときに、そこでドラマを演じ続けていくことができるためには、役者たちはどのようにドラマを演じるべきかを教える原理である。 

日本は、「天災による居場所の崩壊とその復興」のために、長い歴史的な努力を重ねてきた日本民族のドラマ型の生存原理には、人びとの与贈による居場所の生成と相互誘導合致が基盤になる。日本民族の生存原理に結びつけて、日本における存在の救済原理を発見したのが親鸞である。金子大栄はこのことを、“仏を念ずれば、仏はその念ずる人になって念じたもう。”と言っている。

「遍在的な〈いのち〉が居場所から来て自己の内部ではたらき、居場所に自己の〈いのち〉に存在の場所を与える」

(「逆対応の理」と仮称)。

文化面で一定の型の創造が民族に固有なものとして続いて行くのは、その創造の原理が民族の生存原理につながっているからである。柳宗悦は、職人たちがそれを使う人びとの生活を心に描いて作り出した民芸品が、とくに美を意識して作られたものでもないのに、芸術品に劣らない美しさを帯びていることが少なくないことを知って、その美の創造原理が親鸞らの浄土教の「無有好醜の願」(第四願)に関係があると主張した。

存在するものに、美しさ醜さの差がないことが仏の願いであり、その願いが逆対応の理によって職人たちの心ではたらくことが民芸美を創り出しているということである。西田幾多郎が創造の本質を示した“物来たって我を照らす”も逆対応の理を表現したものである。

居場所の〈いのち〉は、複数の生命体が環境に与贈した〈いのち〉の自己組織によって生まれる。その居場所の〈いのち〉に生命体の〈いのち〉が包まれることによって、居場所と生命体の間に相互誘導合致がおきる。生命体の状態と居場所の状態とは、鍵と鍵穴のような関係で合致するが、表裏の関係となるために決して一致せず互いに異なっている。一個の生命体から見ると、それ以外の生命体はその居場所の一部でもある。したがって、その

生命体はそれ以外の生命体とは異なっていなければならない。

(「他者性の理」と仮称)。

これと同様なことが他の全ての生命体についても成り立つことから、居場所をつくり出している生命体の状態が互いに異なっていることが、全ての生命体とその居場所が相互整合的に合致するために必要である(「絶対多様の理」と仮称)。

日本で独特に見られる共創がある。その特徴は様々な人びとが集まってそれぞれ居場所に〈いのち〉を与贈して「二人とない絶対多様な存在」となって、ドラマとしての創造を主体的に演じていくという点にある。つまり、参加をする人びとが自ら与贈して、逆対応の理、他者性の理、絶対多様の理が共にはたらく舞台をつくりつつ、その共創のドラマにおける必要不可欠で二つとない役割をそれぞれ主体的に分担しながら創造的に活動していく方法である。

これは欧米におけるゲーム型(役割分担型)のコラボレーションとは異なった独特の型の集団的創造である。同様に「おかげさま、おたがいさま」という運動は日本独特の共創による社会的文化の創造である。

 

2. 『日本料理の創造的深化』料理研究家 土井善晴氏  

おいしいとはどういうことか?それは享楽的なおいしさではなく、清水先生がお話されたような「細胞の一つひとつが喜ぶ」ということ。それは毎日食べ飽きないものということがある。その問いかけから「一汁一菜」というところに辿り着いた。日本の食事は、実は、発酵食品やお米のように、微生物がおいしく作ってくれる。ただ炊いただけで、いただくという形。刺身もその新鮮なものをいかに美しく、おいしくいただくことが中心。

現代は、どうも何品おかずを用意しないといけないとか、子供が喜ぶ料理は何か?など、基本ではなく、スーパーで売っているものでも良いから、数を増やすことを考えてしまう傾向にある。

おかあさんも忙しいのは十分理解できるが日本は従来「一汁一菜」が基本。そこには、漬物もついていて、飯、汁、漬物で十分だった。これが母の味。家庭の味だった。季節に合わせて秋刀魚がおいしいなら、その時に秋刀魚を焼いて食卓に出すだけで、最高のおかずとなって、ぜいたくな食卓となっていた。一汁一菜の食事は身体の健康にも良いことが分かって

いる。具だくさんのお味噌汁は発酵食品である味噌とあわせ、最高の食材。漬物も発酵食品。

いつの間にか、日本料理がどこどこの料理人の有名な料理がメディアに出る。そうすると、料理に、料理人の顔が出る。本来の日本料理は料理人が全く感じられない姿で、見てきれい、食べておいしい、というもののはずである。すなわち与贈のこころが料理にはなくては

いけないのである。

見返りを求めない料理こそが、本来の日本料理である。

家庭料理を民芸として新しく捉えなおして、民芸という観点から、その美も含めて一汁一菜の世界を創造していくところに、日本料理の世界が新しく開かれてくるといえる。

家族の居場所である家庭は、その温かさはおふくろの味であるべき。

ぜひ、一汁一菜の温かいごはんをおつくりいただくことをお願いしたい。

 

3. 『創造的コミュニティ創り:おたがいさま・おかげさま』  

    エーザイ株式会社執行役員 知創部長 高山 千弘氏

エーザイの企業理念は、患者さんの喜怒哀楽を知り共感することを第一義としている。収益や売り上げを求めるのではなく、患者さんに寄り添い病のつらさを減らしていくこと、そして世の中から病を減らしてくことである。

そのためには共同化を通じて人と社会の在り方を問うことである。

従業員は就業時間の少なくとも1%、すなわち年間2-3日、病人に寄り添うことをルール化している。その中で薬品メーカーとしてではなく、一人の人間として、何をすべきか、何ができるかを学ぶ。その結果薬品が必要であり、ソリューションとしてコミュニティに根差した活動が必要であるという社是である。

その方向性は、日本に限らず、海外でも展開されている。難病の残る東南アジアで、フィラリアの薬の無償投与を実施、アメリカでの乳がんやてんかん、日本や中国での認知症の対応などを展開している。そこにある基本哲学は「与贈」の考えである。

さらに、将来の日本の高齢化社会を鑑みて、地域住民の方々と企業とがワ-クショップなどを通じて一緒に考えるリビングラボの実践や、患者さんと時を共にすることによってつながりを深めながら、コミュニティにおけるヘルスケアのかたちを新たに発見し、創造していく「おたがいさま、おかげさま」システムを展開。

高齢者同士での支援ややりがい、そこに企業のニーズやシーズを発見して相互誘導合致できる輪を作ってきている。

 

5.【パネルディスカッション】 

清水 博・土井善晴・高山 千弘・竹内整一

最後のパネルディスカッションは、講演をされた3先生と日本思想で有名な竹内整一東大名誉教授にも入っていただき、4人で行いました。大変活発な意見が交わされ、内容の濃い討論となりました。

 

まず、最初に、竹内先生に講演の感想を伺いました。

 

竹内先生:

清水先生の考えがとどまることなく、常に進化していることに大変感激した。今日のテーマの与贈は現在の内外の問題に対する一つの解決策になると感じている。

日本人は、清水先生の話のように、もともと「自ら」という考えが強くなく「自ずから」という精神があり、西田幾多郎の「物来たって、我を照らす」という考えを持っている。

結婚することになりました。という表現は、本来自分たちが結婚するのだから、結婚します。というのが欧米の考え方。このようなところにも現れている「おのずからとみずからのあわい」ということが日本の文化の大きな特徴と考える。

清水先生:本当の「おいしい」、「美しい」には相互誘導合致があるのではなかろうか。それは存在ということからくる美しさ、美味しさである。そこには、与贈による人間の存在の深化がある。

 

高山さん:共に「生きていく」ということ、共に存在する社会に向かうことが重要。共存在は、支える人と支えられる人が分かれていては実現できない。支えながら支えるという救済循環が重要である。病気や障がいの方が存在するのは、私たちに気づきを与え成長させる意味がある。そこに新たな〈いのちの与贈〉の意味が生まれてくるように共創のドラマを創っていくことが大切である。

 

最後に清水先生からは、居場所を創るための〈いのち〉の与贈循環についてのお話に加えて、これからの時代は専門を超えて存在を深めていくということが大切であるというお話も頂きました。

 

今日は、「与贈」の話が、哲学的な説明に始まり、日本料理にもその精神が生きている。さらに、エーザイさんのように企業の活動においても、実践的に使われているという素晴らしい話であった。

 

そのほか、土井先生からは清水先生との出会いから料理について、哲学的なとらえ方ができて、民芸などとあわせて日本文化を理解できるところがありがたいことである。

メディアにより、だれでも、世界中の情報がとれ、料理のレシピもすぐ手に入るのは、良し悪しはあるが、日本文化の考えが逆に早く伝わるメリットもあるように思う。

 

4人のパネラーの議論は大変興味深く盛り上がりました。

 

注:なお、シンポジウムの内容については、Facebookやブログ等

への転載はご遠慮ください。

(文責:場の研究所)

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■9月の場の勉強会は、すでにごお知らせしたように中止しました。

10月も場の研究所は、博進堂(株)と共催で「哲学塾」を新潟で開催します。 そのため、勉強会は開催致しません。 

(哲学塾の内容は最後に添付いたします。)

■編集後記

夏休みのあと、9月にシンポジウムを開催いたしましたが、大変内容のある講演会並びにパネルディスカッションだったと思います。

与贈が世の中でさらに広がっていくことを、期待していきたいと考えています。10月は新潟での博進堂さんとの共催で開催する、哲学塾が開催されます。ご興味のある方は、添付資料のメールアドレスなどで、ご確認ください。

なお、11月は勉強会か、ダーウィンルームでの清水ゼミを開催予定です。

今後ともよろしくお願いいたします。

 

10月のイベント紹介:

◎哲学塾 :活かし活かされる与贈循環の実践場の勉強会 

<hakushindoCAMPUS特別講座 リビングライブラリー>

今回の哲学塾では、地域社会に対して与贈を実践する人たちが集まりそれぞれの取り組みと課題を共有します。本講座ではリビングライブラリーという手法を用い、実践者同士の交流と理解を深め、ネットワークを広げていただきたいと思います。

心から社会を良くしたいと願い、実践する方々が活躍していくための出会いとキッカケの場になれば幸いです。

 

◎目的:与贈の実践者が活動の輪を広げていくための糸口を発見する。

◎日時:2017年10月22日(日) 10:00〜17:30

◎会場:森の共育実修所 点塾 (新潟市中央区長潟3-6-2)

◎定員:40名

◎共催:NPO法人場の研究所、㈱博進堂

◎参加費:5,000円 (昼食代込み) ※懇親会費は別途1,000円

◎現在のブース出展者案

・Eco-Branch(愛知県)

・自然栽培新潟研究会(新潟県)

・アズワンネットワーク鈴鹿コミュニティ(愛知県)

・ダーウィンルーム(東京都)

・平和堂薬局(新潟県)

・バウハウス(新潟県)

・エーザイ(株)高山千弘様  (地域とおたがいさま) 

・その他

◎タイムスケジュール(イメージ)

10:00 開講のあいさつ ㈱博進堂代表取締役 清水伸氏

10:15  メッセージ      NPO法人場の研究所所長 清水博氏

11:00 講演   エーザイ㈱知創部 高山千弘氏                

       「おかげさま・おたがいさまの社会を実現する」

12:00 昼食休憩

13:00 リビングライブラリー(導入)

  (いろいろな実践者の話が聞けます)

    Q&Aその他含む

16:30 コメント&まとめ NPO法人場の研究所所長 清水博氏、

    博進堂 清水義晴氏

17:00 閉講のあいさつ ㈱博進堂顧問 清水義晴氏

17:30 軽食による懇親会

19:30  終了

なお、上記は計画ですので、一部内容やタイムスケジュール変更する場合があります。ご了承ください。

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詳細、および申し込みは株式会社 博進堂

担当:博進堂大学 清水

FAX:025-271-2649

ryutaro_shimizu@hakushindo.jp

お問い合わせ

〒950-0807 新潟市東区木工新町378-2

TEL:025-274-7755  FAX:025-271-8421

担当:博進堂大学 清水