福島からの声 2019年春号

今回の「福島からの声」は、継続してご協力頂いております、詩人のみうらひろこさん(本名:根本洋子さん)の詩をご紹介させて頂きます。

みうらさんは、先日、白鳥省吾(しらとりせいご)賞最優秀賞(*)を受賞されました。

今回はその受賞作となった詩「千年桜」を掲載させて頂きます。

この「千年桜」のモデルは、福島県三春町の有名な「滝桜」とのことです。

原発事故の問題はその多くが人間の立場から考えられていますが、このことで、ややもすれば、故郷の土を育んできた、たくさんの生きものたちの声や草木の声をないがしろにしてしまいがちです。

しかし、故郷の自然(居場所の〈いのち〉)とそこに暮らす人々の〈いのち〉は決して切り離して考えることは出来ません。今回のみうらさんの詩は、人間中心の目線ではなく、私たち自身が「千年桜」の立場、すなわち居場所の〈いのち〉の立場に立って未来を問いかけてくれる作品となっており、その言葉の響き一つひとつに深い感動を覚えずにはいられないのです。

(本多直人)

 

*白鳥省吾:

明治二十三年二月二十七日宮城県栗原郡築館町(栗原市築館)に生まれる。明治三十五年築館中学校入学、明治四十年卒業。明治四十二年、早稲田大学英文科入学。大正二年卒業。旧制中学在学中より詩を作り始める。大学三年の時に「夜の遊歩」で詩壇にデビュー。大正三年処女詩集『世界の一人』を自費出版。これ以後詩人として活躍。独自の詩論を展開し、数多くの詩集、民謡集、評論集、随筆集、童話・童謡を残す。

(白鳥省吾を研究する会HPより抜粋)


千年桜 みうらひろこ

私はいつこの地に根づいたのだろう
私が幾多の戦火をくぐりぬけ
酷暑や風雪に耐えぬいているとき
こんな声を聞いたような気がする
   
負けるな力強く根を張り大きくなれよ
それからこんな声もかけられた気がする
   
美しい花を咲かせ、人々に勇気と希望を与
   
えておくれ
私がずうっと後の世まで生き延びることが出
来たのは
こんな祈りを託されてきたからではないのか

いつの世にも苦しみや悲しみがあった
そしていつの世の人も私に希望を持ち祈った
人の一生を旅にたとえるのなら
たかだか百年にも満たない旅に
私は変ることのない姿でここに在りつづけ
旅する人の一生を見つづけてきた
私の円周二十キロ圏内には
私の子孫が私と同じ花を付けているらしい
小鳥が私の実を喰み
体外へ排出する範囲が二十キロ圏内であるこ
とを、歩いて調べた人がいた
小鳥にとって生きぬくための飛翔の世界
小さな命の旅を終えるとき
そこに祈りの若い木が育っていることを
知っているだろうか
 

私の老いた枝々に副え木や支柱が施こされ
私の老体は支えられている
いつの御世であっても
私はここに在り愛でられ希望の樹として
あとどの位ここで人の祈りを受け止めること
が出来るだろう
私に癒やしを求め爛漫と咲く花の季節に
私に会いに来てくれる人々の
平和への祈りの心が波動のように私を包み
笑いさんざめく数多の人々に応えるため
恰(あたか)も滝が流れ落ちるような枝の端々まで

私は花を咲かせつづけたいと願っている