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場の研究所メールニュース 2020年11月号

このメールニュースはNPO法人「場の研究所」のメンバー、「場の研究所」の関係者と名刺交換された方を対象に送付させていただいています。

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■場の研究所からのお知らせ

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皆様

 

場の研究所の理事の前川泰久でございます。

コロナ感染は日本では小康状態という感じですが、欧米は第二波の大幅増加で、ロックダウンまで始まってしまいました。まだまだリスクの高い状態が続くようで、先が見通せない状況です。

既に、お知らせして参りましたが、人が場の研究所に集まらずにできる「ネットを介した勉強会」は10月で5回目となりました。これは電子出版された清水 博『共存在の居場所:コロナによって生まれる世界』が「勉強会」の共通の基盤になっています。さらに毎回、時間をかけて勉強会のためのテキストをつくり、事前にお読みいただくように参加希望者に送っています。

 

今回のテーマは「相互誘導合致について」でした。参加された有志メンバーは15名くらいでしたが、今回も皆さんの体験からのお話や、それぞれの考えの意見が交わされて、より充実したものになってまいりました。内容は参加されていなかった方々へも、ご理解いただけるように、後述いたします。

この、勉強会は、11月も開催予定です。基本のテーマは「共存在」です。研究所としましても、実際にネット上ではありますが、「共存在」の場ができて来ていると感じておりますので、今後も、その原因を探りながら改良を重ねて継続し、広げて行きたいと思っています。

 

これまで、「ネットを介した勉強会」の内容については、メールニュースで議論状況や資料をご紹介してきておりますが、もし、ご感想、ご意見がある方は、前回同様、今回も下記メールアドレスへお送りください。今後の進め方に反映していきたいと思います。よろしくお願いいたします。

 

ご感想、ご意見は、こちらのアドレスへお送りください。

contact.banokenkyujo@gmail.com

メールの件名には、「ネットを介した勉強会について」と記していただけると幸いです。

 

◎コーディネーターのこばやし研究員からのコメント:

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今回、金曜日の勉強会のコアの時間帯に参加できず、一回返信の方が参加者の半数となってしまいました。

これは、オーケストラモデルで言うところの、お互いの演奏に耳を傾け合う事があって、相互誘導合致の機会となるところを1通目だけでやめてしまうことは、相互の関係のためにはたらかないことになります。これでは、「ネットを介した勉強会」で起こっていると思われる、参加者の「居場所」の歴史の共有が起きません。この歴史の生成の時間を全員が共有することが、この勉強会の一番面白いところですので、なんとか「余韻の時間」を設け、そこで相互に質問をして、余韻を生み出す工夫をしてみることにしました。

 

この勉強会のやり方を考える時に心がけていることは、「全員が共有できる納得点はどこであろうか、と問いかけること」です。金曜日に参加している方も、金曜日には一回返信しか参加できない方も、双方が共有できる納得地点です。

そこで、金曜日はそのまま進行し、翌日の土曜日、翌々日の日曜日に「休日の余韻」と銘打って、追加の返信を行える機会を設けました。これは、強制ではなく主体的な参加となります。これらのことによって、活きのある社会的構造体が自己組織的に形成されるか、試してみることにしました。

結果、金曜日のコアタイムとは違う、(二日間と間が開くため)ゆるやかなやりとりと感じましたが、振り返ってみれば、やりとりの返信の数も当日の6割を超えて、又、その一通一通は、時間の余裕があったこともあり、充実した内容となっていました。

「休日の余韻」を試してよかったです。

 

課題としては、1通の返信組の方で、「休日の余韻」でも返信できなかった方々がどのような感じであったのかなど、感想などお聞きする機会を作れれば、と思っています。

当日、休日の余韻と双方のやりとりを通して、私が惹かれたやりとりは、「相互誘導合致で重要なことは、一足早く「鍵穴」からスタートすること…」に関連する内容でした。「共存在」において大切なことは、相互誘導合致と言うことですが、”全体(鍵穴)の方から出発すれば調和の状態となり、部分(鍵)の方から出発すると一種のカオスになる”(清水博)と言うことから、全体の〈いのち〉(生命ではない〈いのち〉)とは何かを考えていくことができていたように思いました。

 

また、「待つ」ということの意味や大切さについての一人ひとりの経験でのことばは、情報からではなく「沈黙から出たことば」でのやりとりであったと感じます。

この点は、清水先生も返信の中で書かれているので、許可を得て、その点を引用しておきたいと思います。

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私たちの「メールによる勉強会」では、言葉によって伝えられる各人の状態がすべてこばやしさんの居場所から全員に回送されてくるところが、各人の間で選択される直接的なやりとりとは異なっています。そのために、メールを重ねていくと、全員が次第に場所的感情を共有していき、横のつながりが自己組織されていくものと思われます。この現象は、居場所を通して場所的感情を共有することで、居場所における〈いのち〉の自己組織をともなって、与贈循環がおきるとことを示していると思います。(ここで〈いのち〉は生命と異なって活きであるために、〈いのち〉の自己組織がおきるのです。)

 

この横のつながりが自己組織的にできるためには、互いに「待つ」ことが必要であると、経験は教えてくれます。こばやしさんのからご提案の「休日の余韻」を楽しむことは、この「待つ」ということに関係して大変意義があると思います。私も、お一人お一人とつながりたいという思いを感じています。本多さんや皆さまのご体験から出た言葉は「沈黙から出た言葉」であり、沈黙に裏打ちされた力を感じます。与えられた〈いのち〉を輝かせるためにはたらくという「与贈の真実性」は、経験から離れた「騒音語」には感じることができません。この「勉強会」を非常に大切なものとして、その真実性を大きく育てていくことが、これからの社会のために必要です。

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◎「ネットを介した勉強会」の10月のテーマ「相互誘導合致について」の資料

(清水先生の資料)の最初の部分を紹介します。

 

相互誘導合致について               

 

「存在は存在者とは異なるものであり、存在とは何かを急いで明らかにすることが哲学の最も重要な課題である」と古代ギリシャでは言われていたけれど、アリストテレス以降、西欧では忘れられてきたということを指摘したのは、20世紀の哲学者ハイデッガーでした。そのために、科学は「存在者の科学」であり、その科学を柱にして組み立てられた近代社会は「存在者の社会」です。

 

存在者の科学ということは、客観的な事実から組み立てられた科学ということであり、そこで抜け落ちていくのが人間の主観的な領域に存在する真実です。このことは、例えば裁判官の判断に影響します。また深刻な病気に苦しむ人びとの悩みは主観的なものであることから、近代医学がそれに十分対応できないことが多いのです。また自己の死について抱く悩みを客観化することはできません。

 

私が学生の頃は、科学者は哲学や精神について語っていましたが、しかし科学者は自らを「客観的な世界」に閉じ込めて社会に近づいていったために、哲学から離れて「専門家」としての地位を獲得し、政治や社会に使われるようになりました。学術会議の諸問題も、このことに関係しています。このようなこともあり、人間の存在に目を向けて、科学がその哲学から新しくなるための努力をしていくことが必要です。

 

以上を頭に置いて、「生きている存在者、生きていく存在。そして、その存在の形を決める場の思想」について一緒に考えてみましょう。まず「生きていく」とは、自らが「役者」となって、その「役」を演じながら、「人生のドラマ」(〈いのち〉のドラマ)を積極的に進めていくことであり、そしてその「ドラマ」のシナリオを生みだす思想が場の思想です。ここで「役者」は実在する存在者(個人)、そして舞台におけるその「役」が存在で、それは人生における実存に相当します。

 

 

…(以下、略)…

 

 

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以上の資料をベースにした議論を行いました。場の研究所では、哲学や精神から知識を切り離さないための努力をこれからも重ねていきます。

 

◎「ネットを介しての勉強会」開催について

11月も場の研究所スタッフと有志の方に協力いただき、メーリングリスト(相互に一斉送信のできる電子メールの仕組み)を使った方法で、通常の第3金曜日の11月20日の17時から、開催する予定です。テーマと進め方は清水先生とこばやし研究員で検討後、またご連絡いたします。

また、参加にご協力をいただく方には別途ご案内させていただきます。

(参加者の方には勉強会の資料を早めに送ります。)

 

12月以降、状況の好転があれば、イベントの開催について、臨時メールニュースやホームページで、ご案内しようと思います。

 

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今後の、イベントの有無につきましては、念のために事前にホームページにてご確認をいただけるよう、重ねてお願い申し上げます。

 

2020年11月5日

場の研究所 前川泰久