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場の研究所メールニュース 2022年01月号

このメールニュースはNPO法人「場の研究所」のメンバー、「場の研究所」の関係者と名刺交換された方を対象に送付させていただいています。

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■場の研究所からのお知らせ

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皆様

 

場の研究所の理事の前川泰久でございます。

12月になり師走ということで皆様お忙しくお過ごしかと思います。

コロナの感染も、何とか減少した状態を保っているので、精神的にも、少し余裕が出てきた感じですが、マスク・消毒を含めた予防安全は継続していきたいと思います。

 

11月の勉強会は19日(金曜日)に勉強会を開催。

皆様のおかげで「ネットを介した勉強会」も18回目となりました。ありがとうございます。

テーマは「自己表現的システム」でした。

なお、勉強会にご参加された方々、ありがとうございました。

 

そして、今月12月の「ネットを介した勉強会」の開催は、従来通り、第3金曜日の17日に予定しています。基本のテーマは「共存在と居場所」で進めていきます。毎回コメントしていますが、ネット上でも「共存在」の居場所が生まれていると感じておりますので、その原因を探りながら改良を重ねて継続し、広げて行きたいと思っています。

 

「ネットを介した勉強会」の内容については、参加されなかった方も、このメールニュースを参考にして下されば幸いです。

もし、ご感想、ご意見がある方は、下記メールアドレスへお送りください。今後の進め方に反映していきた

contact.banokenkyujo@gmail.com

メールの件名には、「ネットを介した勉強会について」と記していただけると幸いです。

 

◎コーディネーターのこばやし研究員からのコメント:

 

「広く誰もが楽しく考え、一緒に思考力を深めていける、という特徴」

 

「ネットを介した勉強会」の方法のユニークさってなんでしょうか。

先の勉強会の後、ふとしたきっかけがあって、このことを考えてみることになりました。

折角なので、掻い摘んで紹介させてください。

 

ITの技術的な面からは、「電子メールが使えるならば参加できる」と言う点が一つだと思います。また、特徴としては、参加している全員が発言できて、全員の意見が読めること。会の進行はガイドが頼れる上に考えたり書いたりは、自分のペースで行えること。

 

…これだと特徴というよりは、説明的ですね。

 

毎月、電子メールを使って勉強会を行っています。それは、知識を身につける機会と言うのでなく、勉強会そのものが楽しみであるかのような時間を一緒に作っているようです。例えるならば、オーケストラが、毎月、作曲家から新しく届く楽譜を作曲家と共に演奏する演奏会と言うのが近いかもしれません。

 

また、例えば「方法のユニークさ」は、1つは、学習の進め方がルーティンで構成されていること、だと思います。

 

楽しく考えさせて、思考力を深くするという特徴もありますね。

 

はい。その為に、進め方は即興的ではなく、順を守れば良いようになっています。その分、身構える必要もなく、聞き逃さないように緊張し続ける必要もなくしてあります。ネットはどうしても情報が先に届いてしまうので、自分が感じられなくなってしまうと感じたから、手続きに気を取られて欲しくなかったのです。このこともあって、広く誰もが参加できるようになっています。

 

まとめると。

この「ネットを介した勉強会」は、

広く誰もが楽しく考え、

一緒に思考力を深めていける、

という特徴がありますね。

 

以上。

 

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11月の勉強会の内容紹介:

◎第18回「ネットを介した勉強会」の資料

(オーケストラになぞらえて資料を「楽譜」と呼ぶことにします。)

 

★テーマ:「自己表現的システム」

 

1.自己表現的システムに対するロイスの考え

・19世紀の後半から20世紀の初めにアメリカで生きたJosiah Royceは客観的な理想主義の哲学を唱えた人として知られている。

・ちょうど20世紀になった頃、彼は“The World and the Individual”という本を出版したが、その付録に「英国にいて何処までも正確な英国の地図をつくる」という課題を実行する活きとしてSelf-Representative System (自己表現的システム)を提唱した。

→英国の地図の制作ということでは、私たちにはピンとこないので、「英国」を私たちの家庭のような「居場所」に置きかえて、居場所にいて、その居場所をどこまでも正確に表現する「地図」を作製する活きとして自己表現的システムを考えてみることにする。

 

2.地図づくりでの課題

・この「地図」をつくる上で重要なことは、居場所を外から見るのではなく、その居場所の内にいて、その「地図」をつくるということである。実際、内に存在してその家庭と非分離的な存在にならなければ、家庭のことはよく分からない。

・居場所に存在して、その居場所の「地図」をつくるわけであるから、できあがった「地図」もその居場所に存在することになる。

→したがって、その「地図」がどこまでも正確に居場所を表現するためには、当のその「地図」自身も、その「地図」に描き込まれていなければならないことになる。

 

3.自己言及のパラドックスについて

・「地図」をつくり始めたときには、居場所にはその「地図」は存在していないので、できあがった「地図」にはその「地図」自身は描かれていないことになる。

→このことは、「地図」がどこまでも正確であるという要求に反することになるので、その「地図」を加えた新しい「地図」を改めてつくらなければならないことになる。

・しかし、その新しい「地図」をつくってみると、居場所には、新しい「地図」に描かれている旧い「地図」と、新しい「地図」自身の合計二枚の「地図」があるのに、新しい「地図」には旧い「地図」だけしか描かれていないことから、新しい「地図」を加えたさらに新しい「地図」をつくる必要が生まれてくる。

→このようにして、現在の「地図」をつくることが、必然的に次の「地図」をつくる活きをつくり出すために、「地図」をつくる活きが―居場所がそれ自身を表現する活きが―いつまでも終わることはない。

・自己が居場所と非分離的になって、このようにして居場所の完全な「地図」を作製する作業には、自己が自己自身をどこまでも完全に表現する(自己言及する)という操作が含まれてしまう。

→自己が自己自身を定義しようとすると、定義が循環するばかりでどこまで行っても終らない状態―自己言及のパラドックス―が生まれることは昔から知られている。

・この自己言及のパラドックスによって、同じ操作を無限に繰り返していく必要が生まれるので、「地図」を無限に描き続けなければならなくなるのである。

 

4.拘束条件について

・居場所とそれと非分離な自己からなるシステムに、自己言及のパラドックスが生成するのを防ぐ活きをするのが拘束条件である。

・その拘束条件としては、外在的拘束条件と内在的拘束条件の二種類が必要になる。

1.外在的拘束条件は居場所の外部世界への境界条件として、居場所と外部世界の関係を定義する。

2.内在的拘束条件はシステムにおける居場所とそこに存在する自己の関係を定義する。

・ロイスの自己表現的システムの外在的拘束条件(システムの外的境界条件)は「居場所とその外部世界の境界」を含めて居場所が定義されていると考えることができる。

・しかし、居場所とその内側ではたらく自己とは、互いに非分離につながってシステムを構成していることが決められているだけで、居場所とその内部に存在している自己の間には、内在的な境界(内在的拘束条件)は存在していない。

→その結果、居場所と自己とが連続的になってシステムを構成しているために、システムが自己言及のパラドックスの影響を受けて「地図」をどこまでも生成していくことになるのである。

 

5.自己言及のパラドックスの発生をふせぐ考え方

・自己の存在が居場所とこのように非分離になっていることは、自己の存在が居場所と連続的になっていなければならないということではない。

→たとえば私たちの身体とその内部にあるさまざまな臓器や器官の存在は非分離だが、各臓器や器官は連続的につながってはいない。それぞれが身体のなかでその存在を位置づけられて、その存在に応じた独自の活きをしているのである。

・このようにシステム「全体」に各「部分」の存在を位置づけて、各「部分」にその存在に応じた活きをさせるのが内在的拘束条件である。自己表現的システムでも、身体における臓器や器官の存在のように、自己の存在をシステムに位置づけて自己言及のパラドックスの発生を防ぐ必要がある。

・またその他方で、自己にとって必要なことは、自己自身がシステム全体にどのように位置づけられているか、その存在を知ること―居場所における内在的拘束条件を知ること―である。それが分からないと自己言及がおきてしまうのである。

 

6.現代における自己言及パラドックスについて

・ロイスの自己表現的システムには、このように内在的拘束条件が与えられていないという大きな欠点があるが、彼が自己表現的システムという概念を新しくつくって、「現在の活きが次の活きを企画して、活きを次々とどこまでも生成し続けていく」という考え方によって生命の本質を捉えようとした点は、高く評価できると思う。

・実際、自己表現的システムの研究の重要さは現在でも増えるばかりである。

→たとえばSNSの急速な発達によって個人とその居場所としての社会の関係が非常に複雑に入り組んできて、多くの人びとが自己表現的システムのカオスに巻き込まれて苦しんでいる。

・また外在的拘束条件や内在的拘束条件を超えて勝手に送られてくる自己の「地図」のために、多くの人々が被害に遭い、出口のない自己言及のパラドックスに陥って悩んでいる。

→人間と自己表現的システムの関係には、これからも必要になってくる奥がまだあるように思われる。

 

7.ロイスの理論の改良

・それではロイスの理論をどのように改良していけばよいのだろうか。その自己表現的システムの理論を乗り越えるために、少し具体的な例について考えてみることにする。

・居場所としての家庭とその家族の存在は非分離で、家族から家庭への〈いのち〉の与贈と家庭から家族への〈いのち〉の与贈という与贈循環によって〈いのち〉の活きがつながっているのである。

・家庭と家族の存在は直接的につながっていなくても、互いに誘導し合って鍵と鍵穴のように離れてつながっている状態にある。

→このように「離れてつながっている」ということは、「鍵」としての家族と「鍵穴」としての家庭の間に内在的な境界(内在的拘束条件)が存在していることを意味している。

・家庭はこの境界を介して、家族の活きを誘導したり制限したりする。この境界が存在しているために間をおくことができるので、家庭における家族の状態は安定している。(家庭が崩壊する直前は別ですが、)

→その状態がロイスの自己表現的システムのように不安定になることはない。

 

8.家庭における内在的な境界による安定状態の作成

・家族のこころに自己組織的に生れる家庭のイメージが、家族が描く居場所の「地図」に相当する。家庭のために家族がはたらくことが、家族の家庭(居場所)への〈いのち〉の与贈であるが、与贈の度に家族と家庭の関係が微妙に変化していくので、それに応じて「地図」が僅かずつ描き変えられて変化していくことになる。

・しかし内在的な境界(内在的拘束条件)が家族の存在を守って家庭に安定した状態を生みだしているので、家族から家庭への〈いのち〉の与贈が安定した状態でおこなわれて、家庭のイメージ(「地図」)が僅かずつ変化していく点が、存在の不安定性によって「地図」が増殖的にどこまでも増えていくロイスの自己表現的システムと異なっていることになる。

 

9.「役者」と「舞台」という考え方について

・ここで家族と家庭を「役者」と「舞台」と見なし、家族の家庭生活をその「役者」たちが「舞台」において自己の〈いのち〉を即興的に表現する「〈いのち〉のドラマ」(即興劇)であると捉えることにする。

・「役者」たちが「舞台」において、その〈いのち〉を表現することが「役者」たちの〈いのち〉の与贈であり、「舞台」が「舞台」の〈いのち〉によって「役者」たちの〈いのち〉を包んで、それぞれの存在を「舞台」に位置づけることが「舞台」から「役者」への〈いのち〉の与贈である。この「舞台」からの〈いのち〉の与贈によって、「役者」の「舞台」における役割が決まる。

・〈いのち〉の与贈によって、「役者」と「舞台」の間を〈いのち〉が循環することが〈いのち〉の与贈循環で、内在的な境界(内在的拘束条件)が存在しないということは「舞台」が定義されていないということだから、家庭における家族の存在は他所の家庭にいるように不安定なままである。

 

10.言葉の追加説明

・「役者」と「舞台」によって生成する「〈いのち〉のドラマ」に関する内容的には同じ現象でも、それを〈いのち〉の活きに注目して見るのが「〈いのち〉の与贈循環」で、存在とその〈いのち〉の表現に注目して見るのが「相互誘導合致」である。

・「役者」たちが「〈いのち〉のドラマ」で共に自己を表現する「舞台」は、家族の〈いのち〉の居場所としての家庭への与贈によって生まれる。「役者」の〈いのち〉の表現が「舞台」でなされたときには、それは「鍵」の形を「鍵穴」に向かって表現したことになる。「ドラマ」が続いていくと、「役者」がおこなった〈いのち〉の表現は次第に「舞台」に移されて「鍵穴」を形づくっていく活きをしていく。

・「〈いのち〉のドラマ」では、「役者」たちの〈いのち〉の表現に新しい「部分」が生まれると、それまでの「部分」が「全体」の方にくり込まれて、新しい「部分」(「鍵」)と新しい「全体」(「鍵穴」)によって相互誘導合致が新しく生れていくという「くり込み相互誘導合致」―「〈いのち〉のくり込み自己組織」―がおきる。

→この「くり込み相互誘導合致」の連続が「舞台」におけるドラマの時間の生成のメカニズムである。

 

11.SNSにおける相互誘導合致

・内在的拘束条件によって存在が社会的に守られていないために生まれる不安定状態から抜け出すためには、それが限られた範囲であっても、まず与贈と与贈循環によって内外在の拘束条件が形成できる「居場所」(社会的な「舞台」)をつくり、次に「くり込み相互誘導合致」によって、その「居場所」(「舞台」の範囲)を徐々に広げていく以外によい方法はないと思われる。

・ここで強調したいのは、居場所に歴史が生まれるためには、居場所が時間的に維持されていくだけでは不十分であり、その居場所に存在している人びと(生きもの)による「くり込み相互誘導合致」が必要であるという点である。

 

★極端な例での説明:

・空き家を維持しているだけでは、そこに家としての歴史は生まれない。

・自己表現的システムとしての活きがそこに現れて、その活きが「くり込み相互誘導合致」によって時間的に継続していくことによって歴史が生まれるのである。時計で計ることができる物理的時間の外にも、「くり込み相互誘導合致」が繰り返されることによって進行していく歴史的時間がある。

・私たちの「ネットを介した勉強会」という「オーケストラ」では、各人の「楽譜」(内在的拘束条件)の「演奏」(「居場所」における〈いのち〉の表現)に「指揮者」が適切な外在的拘束条件を与えることによって、「くり込み相互誘導合致」―「〈いのち〉のくり込み自己組織」―を進めて歴史的時間を生成している。

 

12.ロイスの理論と「くり込み相互誘導合致」について

・ロイスの理論に戻って考えてみる:

もしも自己が居場所の完全な「地図」をつくることができれば、静的にはそれで目的とする表現が目出度く完成したことになるので、〈いのち〉の自己表現の活きはそこで終わる。しかしそのことは、動的には〈いのち〉の活きがそこで止まって、自己表現的システムとしての自己を含めた居場所が死ぬことを意味している。

・居場所が生き続けていくためには、居場所の完全な「地図」が何時までも完成しない企画を先送りしていくことが必要である。

・ここで居場所の「地図」をつくることは、相互誘導合致の「鍵」の活きに相当し、その「地図」を居場所のものとして、居場所に位置づけることが「鍵穴」の活きに相当する。より完全な「地図」をつくって、それを次々と居場所に位置づけて歴史的時間を生みだしていく「くり込み相互誘導合致」が居場所における「〈いのち〉のドラマ」の生成原理になる。

・ここで居場所全体の境界条件が外在的拘束条件に相当し、また次々とつくられていく「地図」が踏まえていくものが内在的拘束条件に相当する。内在的拘束条件は思想や風土や考え方などに相当する。それを大きく捉えれば、居場所に〈いのち〉の自己組織を進める条件になっている。

→このように「くり込み相互誘導合致」はロイスの自己表現的システムの静的で不安定な性質を動的で安定したものに変えるのである。「くり込み相互誘導合致」によって、〈いのち〉の自己組織が進んでいく。

 

13.地球も「くり込み相互誘導合致」が重要

・歴史をつくりながら生きていくシステムは、細胞でも、個人でも、家庭でも、組織でも、国家でも、また地球でも、みな動的な自己表現的システムであり、それが生き続けていくために「くり込み相互誘導合致」が重要な活きをする。

・居場所としての家庭における家族の共存在では、家族と家庭が非分離的であるなら、家族が互いにつながって〈いのち〉の表現をおこない、皆で話し合いながら「舞台」としての家庭の「地図」をつくっていくことになる。

・家族も成長していくので、そのことも考えると「くり込み相互誘導合致」によって〈いのち〉のドラマを演じながら、歴史的な自己表現的システムとして「居場所としての家庭」を共創していくことが必要になる。

・家族がつくる家庭の「地図」が互いに大きく異なっていると、一緒に存在して生きていくことはできない。

→そこで大切になるのが、〈いのち〉の居場所へのそれぞれの〈いのち〉の与贈である。居場所への〈いのち〉の与贈がその居場所の「地図」をつくる活きとつながったときに、その居場所に自己表現的システムとしての活きが生まれるのである。それは〈いのち〉の与贈循環が生まれて、それぞれの存在をその居場所に位置づけるからである。

・人間を含めてさまざまな生きものが共に存在していく居場所としての地球と、そしてその未来には、自己表現的システムとしての「地図」づくりの共創と、その「くり込み相互誘導合致」の実践がますます重要な意義をもってくると思う。

 

以上

(資料抜粋:前川泰久)

               

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◎12月の「ネットを介した勉強会」開催について

 

12月の勉強会ですが、最初にお知らせ致しましたように、第3金曜日17日に開催予定です。

よろしくお願い致します。

今回も、場の研究所スタッフと有志の方にご協力いただき、メーリングリスト(相互に一斉送信のできる電子メールの仕組み)を使った方法で、参加の方には事前にご連絡いたします。

この勉強会に参加することは相互誘導合致がどのように生まれて、どのように進行し、つながりがどのように生まれていくかを、自分自身で実践的に経験していくことになります。

参加される方には別途、進め方含めこばやし研究員からご案内させていただき、勉強会の資料も送ります。

 

なお、今後のコロナの状況を見ながら、「ネットを介した勉強会」以外にイベントの開催が決定した場合は臨時メールニュースやホームページで、ご案内いたします。

今後ともサポートをよろしくお願いいたします。

 

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今後の、イベントの有無につきましては、念のために事前にホームページにてご確認をいただけるよう、重ねてお願い申し上げます。

 

2021年12月1日

場の研究所 前川泰久