今回の「福島からの声」は、詩人、鈴木正一さんの詩集「あなたの遺言~わが浪江町の叫び~」から「ふるさとの終(つい)の住処」をご紹介させて頂きます。
私たちの身体に〈いのち〉があるように、「ふるさと」という舞台にも長い歴史を刻み込んだ深い〈いのち〉があります。そこに暮らす人々それぞれが役者となって、活き活きとした〈いのち〉のドラマを演じてきたことで、温かで、それでいて懐かしさのある「ふるさと」という舞台が創られてきたのです。
しかしながら、国や東電から示される廃炉までの途方もないロードマップ一つとっても、処理水、燃料デブリの取り出し、建屋の解体、放射性廃棄物処理の問題など、人々の声の聞こえない、物質面の策しか見えてきません。
この原発事故によって根こそぎ奪われてしまったもの。
それは、単なる廃炉や除染からだけでは決して見えてくることのない、生きていくための居場所であり、そして大切な「終の住処」としてのふるさとの舞台の〈いのち〉そのものであるということ。
そのことを鈴木さんの詩から改めて強く感じさせられ、そして深く問いかけられるのです。
(本多直人)
ふるさとの終の住処
鈴木正一
友と汗を流した 天王山の登山
高瀬・室原川での鮎の友釣り
仕掛けは親爺譲り
商工会青年部伝統の河川敷 桜祭り
仲間と創めた サマ-フェスティバル
請戸浜の地曳網大会と
観客数万人集う お盆の花火大会
街中で 複数台の矢倉を
踊り子が囲む 盆踊り大会 等
歩け歩け初日詣大会
行政区対抗町民体育大会 等々
地域の 親密な絆が頼り
生来 私を守り育んだ源泉
それは ふるさと
鶯が鳴き 山桜が咲きほこる
窓際には 卵を抱く山鳩の巣
時には 散歩している雉のつがい
鶉の親子との出会い
茸・タラの芽・ウド・山栗等 自然の恵みを満喫
隣接のため池は 鯉・鮒・公魚の棲家
休日は釣り人達が集う
冬には白鳥が飛来し 餌をやるのが日課
私の密かな楽しみ
自宅は 雑木林に溶け込んだ 自慢の住処
あの原発事故が 起きる前までは・・・・・・
一瞬にして 私の人生とふるさとは 奪われた
そして住人の居なくなった 終の住処