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場の研究所メールニュース 2018年12月号

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場の研究所 定例勉強会のご案内 

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  ホームページ:http://www.banokenkyujo.org/ 

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「〈いのち〉を居場所に与贈して〈いのち〉の与贈循環を生み出そう」 

〈いのち〉とは「存在を続けようとする能動的な活き」である。 

                        (清水博) 

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2018年12月のメールニュースをお届けいたします。 

今年は、今月12月の勉強会をもって、年内のイベントを終了

いたします。今年、一年間「場の研究所」のイベント参加や

サポートをいただきありがとうございました。

また、メールニュースお読みいただき感謝しております。少々

コンテンツが多めであることは認識しておりますが、勉強会に

どうしても参加できない方に、勉強会の内容を書面である程度

お届けしようと考えてのニュースです。ご了承ください。

・2018年11月の勉強会は「場の研究所」で11月16日(金)

15時から19時30分まで、従来通り15時からワイガヤ的に

議論を進めて17時より勉強会となりました。

 

まず、15時からは、10月に引き続きハラスメントに対する

議論をしました。最近よく話題となるテーマであり1回では

議論が足りないことと、場の理論と共通する部分が多いので

今回もスタッフの小林 剛さんが中心になってワークショップ

を実施しました。

 

ます、この内容から紹介いたします。

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<ワークショップ「ハラスメントを捉えなおす」について>

10月に続き11月も15時からの時間を使って、ワークショップ

「ハラスメントを捉えなおす」を行いました。

今回は、論文の中から

1)「ハラスメントの本質」、

2)「「正常さ」という病」、

3)「ハラスメントな社会」

の3つのテーマでエッセンスを短くまとめ、これらを読んで

いただいた後に、そこに何が書かれていたか、何を考えたか、

これから未来に何を想うか話し合ってみました。

 

今回は、前回以上に、対話に時間を割いたことで、話し合いは、

参加者自身の実地に即した話題に繋がるところまで深められた

ように感じています。

また、それぞれが、考えたことを、この場だけに留めず、持って

帰り、自身の生活と結びつけて考えることを確認し合って終わり

ました。

 

※ ワークショップの中身については、要約できるものではない

ので、ここには記しません。

 

(題材の要約)

論文「ハラスメント理論」(本條晴一郎)では、人間の学習

(ここでは、学習は、経験を通じて環境に適応する能力を獲得

することをいう)の仕組みに注目することで、ハラスメントが

どのような働きかけなのか、また、その構造と本質はどのような

ものなのかが論じられています。

 

ここで明らかにされた『1)ハラスメントの本質』は、感情が

文脈を捉えるのに必要であること、感情を利用しなければ学習

ができず、その場しのぎの振る舞いをとってしまうことでした。

ハラスメントは、他者が感情に基づいて捉えた文脈を(「否定」

し「強制」することで、)利用することを妨げ、学習を阻害する

働きかけだと言います。

 

2)「正常さ」という病について

その病の人間は、見かけ上、状況によく適応しているように見え

「異常」とは見えません。しかし、この適応は、「文脈を捉えた

上で適応すること(学習により適応するもの)」ではなく、

「文脈を利用することなく(外的)規範に沿って振る舞うこと

(学習を停止したもの)」です。

 

ハラスメントを行うものは、柔軟性と多様性が欠如した固定

された自己像を持つことになります。(自己像が文脈に基づいて

いるならば、それは固定した自己像にはなりません。自らが

捉える文脈を他人に押し付けることは、虐待ではあっても、

ハラスメントやダブルバインドとは質的に異なります。)

それは、虐待者自身が以前にハラスメントを受け、学習しない

ことを学習した結果、外的規範に支えられた自己像を持つこと

が可能となった結果です。

 

ここでの問題は、従っている外的規範の中身ではなく、外的規範

に従わないと行動できないことです。

ハラスメントの犠牲となり学習を停止した人間は、安定した状況

で外的規範に従った行動をすることにより、他者にハラスメント

をするか、他者をダブルバインドに置くかすることになります。

 

こうした、固定した外的規範を押し付けることが価値観として

奨励されている『3)ハラスメントな社会』であるとしたら、

そこでは、どこへ行っても学習を停止することが要求されること

になります。

やっかいなことに、ハラスメントの犠牲者に、自らの文脈に立ち

返ることを要求すれば、それは新たな外的規範の押し付けに

なってしまい、外的規範の置き換えによってでは、学習の停止

から脱却することができないことになり注意を要すると言えます。

 

(まとめ)

ハラスメントの仕組みを理解することで、身の回りに潜むハラス

メントの構造を持った働きかけを実地に即して考えることが

できるようになるのではないかと考えています。また同時に、

学習の停止を防ぐための方法論を考えることへも発展させて

いけることを期待しています。

 

以上

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17時から、清水先生のお話は仮題として「存在と関係」という

テーマでしたが、「場の思想:存在と与贈について」という内容

で説明をしていただきました。

今回はキーワードごとに議論するという形で資料紹介されました。

当日の主要内容を下記に掲載します。

◎場の思想:存在と与贈について

 

地球全体を居場所と考えて、人間以外の生きものを含めて生きて

いかなければならない時代が来て、互いに異なりながら主体的に

生きて、しかも全体として調和するような生き方を発見すること

が必要になっています。地球全体でドラマを共創していく時代が

来ているのです。結局は人間の意識の中だけの「動的平衡」に

行き着いてしまう西田哲学も、居場所のことを忘れた個人の力の

ドラマに行き着いてしまうハイデッガーの実存の哲学も、現在

では、乗り越えられるべき通過点としての意味しか持っていない

と思います。

 

仏教でいえば、共創的な事事無礙「一即一切、一切即一」の

ドラマが求められているのです。ここで「一」は事すなわち

一つの生きもののことであり、「一切」は地球上の一切の

生きもののことです。すでに地球全体の共創のドラマを描く

ことを始めなければならない時代に入っているのです。

 

このことを目標にして新しい哲学をつくり、日本の場の文化の

思想的基盤を地球レベルに広げていくことが場の研究所の

大きな目標ですが、それは次の〈いのち〉、居場所、与贈の

三つの概念をもとにして、居場所における〈いのち〉のドラマ

の理論を組み立てることによって進められます。

 

〈いのち〉

存在者が生きているかどうかは、生命をもっているかどうか

によって判断される。だが、存在者が生活していくことは、

その存在を時間的に表現していくことであるから、そのこと

がどのような原理によっておこなわれているかは、生命に

よっては理解できず、存在者自身の能動的な活き〈いのち〉に

還元しなければ理解できない。ここで〈いのち〉とは、その

存在を継続的に維持していこうとする存在者(生きもの)に内在

する生命力に相当する能動的な活きである。

 

居場所

存在者は居場所においてその存在を表現していく。生活とは、

存在者が〈いのち〉の活きによって、その存在を居場所に表現

していくことである。存在者は居場所における生活者である。

ここで居場所とは、存在者の存在が表現されて日常的に生活が

おこなわれていく場所である。例えば、都会に暮らす多くの人々

にとって、その家庭と会社が居場所であり、またその都会も

大きな居場所である。

 

与贈

与贈とは存在者からその〈いのち〉の活きを実質的に切り離して、

それを居場所のために使うことである。具体的には、居場所に

〈いのち〉が生まれて、その存在が継続的に維持されるように、

それぞれの〈いのち〉を自己への直接的な見返りを考えること

なく使うのである。ここで重要なことは、「存在者から切り離して、

その〈いのち〉を居場所のために使う」ということである。

 

創出循環(与贈循環)

〈いのち〉のドラマの舞台としての居場所は、その存在を時間的

に表現していく〈いのち〉をもっている居場所である。居場所が

「舞台」としてドラマの時間を表現して、多様な存在者が「役者」

として、その舞台でそれぞれ他にはない主体的な存在を表現

させていくところが〈いのち〉のドラマの重要な特徴である。

 

このことによって、たとえば一方では約60兆個と言われる

多様な細胞が創出的に生れ、他方ではそれらの細胞の〈いのち〉

からその居場所としての人間の個体の〈いのち〉が自己組織的

につくり出される。この存在者と居場所の二種類の創出的な

生成が循環的におこなわれて「〈いのち〉のドラマ」を時間的に

(歴史的に)進めていく。この循環的な変化を仮に「創出循環」

と名づける。

 

創出循環が居場所に生れるためには、存在者すなわち生きものが

それぞれ自己の〈いのち〉を居場所に与贈することが必要である。

そしてそのことによって、多様な生きものから与贈された

〈いのち〉が居場所において自己組織的に居場所の〈いのち〉

に共創されるのであり、さらにその居場所の〈いのち〉が場

として存在者を包むこと--存在者に共創されたその〈いのち〉

を表現する一歩先の舞台を与贈することに相当する--がおきる

のである。存在の創出循環はこの与贈の循環によって生まれる。

居場所と存在者の存在の共創的な創出循環こそが、〈いのち〉の

ドラマ論の特徴である。

 

事事無礙の意義

ここで重要なことは、個々の存在者の存在が互いに異なり、それ

ぞれが他にない活きを受けもちながら、一つの目的を達成する

ために共創することである。そのためには、何のためにドラマを

共創しているかという究極の目的がどの役者(存在者)にも

はっきり了解できていることが必要である。その目的が全体に

よく理解されていれば、互いに妨げ合わずすべての存在者が

互いに協力できる活き方を自律的に創出できる。

 

理事無礙から事事無礙へ

東洋思想を深く表現したものとして華厳哲学がある。その哲学

が目指す究極の状態は事事無礙「一即一切、一切即一」である。

事とは存在者のことであり、無礙とは互いの存在が妨げ合わ

ないということである。華厳哲学によれば、この事事無礙は

「理事無礙」を通して実現される。「理」とは居場所の究極的

な状態を了解する広い意味での宇宙意識(場所意識)であり、

その宇宙意識がすべての存在者に共有されている状態が理事

無礙である。

 

この理事無礙の状態に到達するために必要なことは、個々の

存在者からその〈いのち〉を切り離して究極の居場所としての

宇宙に与贈することであり、この切り離しによって居場所

としての宇宙における〈いのち〉の自己組織が可能になる。

一方、存在者が自己の〈いのち〉を抱いたままでは、居場所に

カオスが生まれてしまい、この宇宙意識に到達することは

できない。

 

地球の場の文化へ

地球の場の文化にとって重要なことは、人間にその〈いのち〉

を地球に与贈させることである。地球における創出循環を生み

出すために、日本の伝統的な場の文化を練り直して、「地球の

場の文化」を国際社会に提供することは非常に意義がある。

それは人間と自然の関係のあり方を、地球への与贈を前提

とする創出循環の立場から捉えなおして、そこから地球という

居場所からそこに生きる多様な存在者に与えられる場とは

何かを、できるかぎり具体的に示していくことである。この

ような考えから、伝統的な場の文化を創出循環の立場から

捉え直していくことを進めていきたい。

 

以上

■12月の勉強会のご案内

12月も従来通り、大塚の「場の研究所」で勉強会を開催

いたします。

日時:2018年12月21日(金曜日)

   15時から19時30分までの予定です。

(従来通り15時からワイガヤ的に議論を進めて17時より

 勉強会を行います。)

 

勉強会テーマ:仮題「新しい場の理論」を実施いたします。

場所:特定非営利活動法人 場の研究所

住所:〒170-0004 東京都豊島区北大塚 1-24-3

Email:info@banokenkyujo.org

 

参加費:会員…5,000円 非会員…6,000円

申し込みについては、毎回予約をお願いいたします。

  (なお、飛び入りのお断りはしておりません。)

 

■編集後記

今回の勉強会も前回に続き、ハラスメントについて議論しました。

「正常さ」という病という内容は、興味深く、ハラスメントに

適応してしまう人間は、異常に見えないという病である。しかし

「自らの感情よりも状況に適応した「正常さ」の裏にその場

しのぎのふるまいであり、規範に従っていてもそれではすまない

状況になると破綻する。」という説明があり、現在の大きな課題と

感じました。

清水先生は体調が今一つの中、資料を丁寧に説明してくださり、

参加者の理解度がかなり上がったと思います。

なお、11月に86歳になられたので参加者全員でお菓子を食べて

お祝いをしました。

 

12月は従来通りの「場の研究所」での勉強会を計画しております。

少々早いですが、来年もよろしくお願いいたします。

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定非営利活動法人 場の研究所

住所:〒170-0004 東京都豊島区北大塚 1-24-3

電話・FAX:03-5980-7222

Email:info@banokenkyujo.org

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