福島からの声 2016年6月

今月の「福島からの声」は、みうらひろこさんの詩集「渚の午後」連載第5回目です。

今回ご紹介させて頂く詩は「記憶の街」。

読ませて頂いていると、そこにかつてあった街の、豊かで活気ある姿が、温かな気持ちと共に心に浮かび、失ったものの大きさに改めて胸を締め付けられるようです。

当たり前のようにあった日々の暮らしが震災と原発事故によって、根こそぎ奪われるということ。それは、安心して暮らしていける〈いのち〉の居場所を奪われるということでもあります。

居場所は、単に道路を復旧したり、新しい施設を建て、除染することだけで元通りに戻るものではありません。そこで暮らしを営んでいた方々の心に映っていた故郷の姿こそが、本当の意味での居場所の復興とは何かを深く問いかけてくれる道標になっていくのではないかと思います。                        (本多直人)

 

 


 

記憶の街(ワ-クショップから)

 

白い模型の建物が

パネルの平面を埋めてゆく

震災と核災で逃げなければならなかった

懐かしい街や集落が

みんなの手によって復元されてゆく

 

この店の柏餅のおいしかったこと

あの食堂の旦那さんは

いつも皮靴をはいて出前してたよね

ウナギの蒲焼の臭いが漂って

すきっ腹にこたえた駅通りのお店

そこから裏通りに入ると

小鳥の囀がきこえたペットショップ

パン屋はここ、ガソリンスタンドもあった

笑顔の素敵だった花屋の奥さんの店

パ-マ屋さん、弁当屋、ジ-ンズの店

そこのス-パ-の店頭からは

甘い果物の香り

みんなの心の中に蘇ってきた街並み

NHKの「新日本紀行」の番組で

サ-カスの来る町として紹介された町

秋の大祭「十日市」は

この地方一番を誇った出店の数と

多彩なイベントで盛りあがり賑わって

平和でのどかだった町

幸せだった暮しが思い出されて

あ、泣いてはダメ

模型の街が水びたしになっちゃうよ

 

日本は七十年も戦争が無かったから

当り前に思っていた幸わせが

失なわれて初めて気づいた

里山の恵み、川の恵み

海からの恵みも沢山もらった

その海は狂暴な津波となって

四つの集落を呑み込んでしまったけど

漁船と大漁旗と海鳥の思い出が

潮騒のように広がってきた

いつかきっとこの町に帰ってゆこう

ジオラマでない本物のこの町へ

新しい街並みを造りあげてゆこう

希望という色付けをしながら