福島からの声 2017年2月

今回の「福島からの声」は、詩集の連載を頂いたみうらひろこさんの短歌の連載の第2回目です。

作品では、津波と原発事故の被害によってあの日失われた居場所の姿の今が、線路や踏切、海に傾く船を覆うようにして群生するアワダチ草の風景などとともに描かれ、私たちの心に深く訴えてきます。

〈いのち〉の居場所が失われることの大きさを改めて感じさせられます。

失われた居場所に、再び〈いのち〉を吹き込むということ。

それは、除染、ライフラインの復旧、住宅の再建ということだけでは決して実現できないことなのです。

これからの居場所づくりにとって、大切なこととは何か。私たちは何を失い、何を取り戻していかなければならないのかを、短歌は深く問いかけてくれているのです。(本多直人)


 

駅三つ 呑み込まれたる常磐線 復帰作業の人らの在りて

 

踏み切りの 遮断機シグナル警報機 点検工事の始まりを見ゆ

 

赤錆びた 線路呑み込むようにして アワダチ草ははびこりて生う

 

流されし 船は静かに傾けり アワダチ草の黄色い海に

 

久びさに 遮断機降りる踏み切りを 駅四区間の電車通過す

 

思わずに 手を振りてをる復旧の 電車の轟音 希望のごとく

 

気丈夫に 津波の様を語る人 消防団の息子()は呑まれりと

 

順ぐりに 逝く世の常は狂いたし 老を残して若きが逝くは

 

かりそめの 住いなれどもこの庭に 華やげと植えし 黄色いビオラ

 

柿の実も 茗荷破竹もみなだめと この年の幸おあづけつづく