福島からの声 2018年5月

今回の「福島からの声」は、これまでに続いて、根本洋子さんの俳句集「避難解除」の中から「巡る春」の掲載させて頂きます。

東日本大震災から8年目を迎えた春。

原発事故によって故郷を奪われた多くの方々にとって、8年目を迎えた春は、どのような姿で心に映されているのでしょうか。

根本さんの俳句からは、人々の計りようのない虚しさや不条理だけでなく、人間と共に居場所を創っていた草木やいきものたち、そして大地の悲しみまでも伝わってくるように感じられるのです。居場所の失うということの大きさ、その傷の深さ。おだやかな春ゆえに、一層、深く心を締め付けてくるようです。

原発事故から未来に踏み出す一歩は、この苦悩の大地から踏み出さなくてはならないのだということ。そのことを私たち日本人は、8年目だからこそ、さらに深く心に刻みながら、復興を問いかけていかなくてはならないのです。

(編集者 本多直人)

 


巡る春

 

行く春を 愛でることなく 故郷捨て

 

未だ疼く あの日吹雪の 峠道

 

巡る春 師は核災と 名づけたる

 

バリケ-ド 杭が隔てる水仙花

 

古里は フレコンバッグや 椿落つ

 

春雷や 一時帰宅を 追いかけて

 

新緑や 放射線量 まだ高し

 

桜しべ 泪のように 降りし午後

 

こぞり立ち 芽をはぐくめや わが居久根

 

解除なき 里の居久根や 椿咲く