福島からの声 2019年11月号

今回の「福島からの声」は、合同歌集「あんだんて」第十一集より、根本洋子さん(詩人みうらひろこさん)の書かれたコラムと短歌のご紹介をさせて頂きます。

台風15号、19号は、各地に甚大な被害を与えました。

東日本大震災から8年を経て、ようやく一歩を歩き出し始めたその足を、再び押し戻されるような不条理な思いで日々を送っておられる方々も決して少なくないのではないかと思います。

福島では、冠水や浸水によって放射性廃棄物を入れたフレコンバックが`流され、回収が出来ない状況であることも伝えられています。大量の雨水によって溢れ出た汚染水の拡散の影響も心配です。

地球温暖化の問題が待ったなしであるように、この福島の問題も待ったなしの私たち自身の〈いのち〉の問題であることを改めて痛感させられています。

みうらさんの短歌からは、失われていく故郷の〈いのち〉の声が、置き去りにされ、解体されていく家屋や、除染後の庭先を荒らす猪の姿を通じて「叫び」となって聞こえてくるようでなりません。そして言葉に尽くし難い喪失感と痛みを伴う感情がより強く、心に訴えかけてくるのです。

本多直人

 


「慶事あり」より

根本洋子

雨もりもせぬ家なれど八年も人住まぬこと朽ちは進みき

聞かずとも察すことなり友の家取り壊されて更地になるを

除染せし庭で暴るる猪のワナ申請す役場に寄りて

 

時折りに家に風入れ戻る夫寂しさつのらせ皺深くして

「ライトバ-スの歌のこと」より

根本洋子

 

世界を切り裂く軽快な言葉として、歌人の大井学氏がある新聞に書いておられた。

氏によって、ライトバ-スという短歌の系譜があることを初めて知った。作者と読者、社会とがつながる日常的な軽さを持った歌のことをいうのだそうだ。私は歌の系列のことも何も知らずに、震災後短歌の会に仲間入りをさせてもらって詠んでいるだけなので、なりゆきまかせ、つまり土足で歌の世界に入り込んでしまったのかもしれない。

原発事故で余儀なく避難者となったため、訴えたいことが湧きあがり、ふり返っても元の生活には戻れないが、社会とつながる、世界を切り裂くというような歌を、この先詠むことが出来るのか、はなはだ心もとないが、原発事故を風化させないためにも、これからも精進しなければと思っている。

(コラムは前半部分のみ抜粋し、ご紹介させて頂きました 編集部)