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場の研究所メールニュース 2020年06月号

このメールニュースはNPO法人「場の研究所」のメンバー、「場の研究所」の関係者と名刺交換された方を対象に送付させていただいています。

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■場の研究所からのお知らせ

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皆さま

 

「経済への懸念も深刻になっているために、緊急非常事態が少し無理をして終了しましたが、そのために、これからコロナウイルスとの共存の時代を迎えることになると思います。これまでの経験をもとにして、知恵を出し合うことが大切になってくると思います。

その意味から、「ソーシャル・ディスタンスの知恵」を深めていくことが必要になると思います。不要不急の状況では、自宅に籠もって活動することも、「ソーシャル・ディスタンス」をとることになるわけですから、そのような活動のあり方を、場の研究所としては、この機会に、皆さまと協力して深めていきたいと思います。くれぐれも、お身体にお気をつけください。」(清水 博)

 

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場の研究所の理事の前川泰久でございます。

新型コロナウィルス(COVIT19)について、何とか緊急事態が全面解除の状況になりました。しかし、東京は、感染リスクも高い地域で、三密にならない対応や県境を越えた移動の自粛などは継続となり、なるべく外出は自粛という方向性に変化はありません。

場の研究所のイベント開催につきましても、3密という観点から、従来の会合の形での開催は難しいと判断し、残念ながら6月の 哲学カフェ、勉強会も中止することに致しました。

しかしながら、場の研究所では、立ち止まらず、新たな形で学ぶための方法の模索を続けております。

5月は場の研究所スタッフと有志の方に協力いただき、「集まらないこと」、「参加の技術的ハードルは下げること」などを条件として、メーリングリスト(相互に一斉送信のできる電子メールの仕組み)を使った方法を試行することができました。

行ったことを簡単ではありますが、紹介します。

清水先生の資料「COVIDと社会」(添付資料)を元に行いました。

資料は事前に送りましたが、会自体は、ゆるやかに時間を決めて(午後2時から6時)行いました。

(事前に送る資料には、当該資料の朗読データを含めることにしました。)

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◎問いかけ

「COVIDと社会」を読んだ後、考えてみてください。

緊急事態宣言以降、世の中や身の回りを見回すと、様々な問題が起き、矛盾が生まれ、また、どうにもできないことなど渦巻いているように感じます。もし、それらのことに対して、各々、取り組んでいることなどあれば、その取り組みと資料「COVIDと社会」とを見比べつつ、思うこと、考えることを共有しましょう。

Q.今、ご自身なりに、実際に、具体的に、行っていることはありますか。また、そのことを行うために必要な条件はなんだと感じていますか。

Q.「COVIDと社会」を読む前にあったご自身の考えと、読んだ後の考えに違いはあるでしょうか。

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これを二度繰り返しました。

一度目に送られた皆さんからのメールを各々が読み、その上でもう一度問いかけを繰り返すというやり方をしました。

 

この方法は、やりとり一つ一つに十分な間があるので、じっくりと自身との対話の時間がとれたようにも思えます。最新のウェブ会議などの方法とは違い、リアルタイム的な会話が行えることとは違うのですが、不思議と参加者の間で共に時間を紡いでいる感があったように思われました。

ただ、何がこのような感覚を持たらせたのかは、今一度試してみる必要があるであろうという結論です。

また、議論の内容が思想的・哲学的であるために、編集機能が必要なのが、このシステムの特徴なのですが、この点もまだ十分に感じていないという現状です。

今後、これら課題の習熟を経て、「ネットを介した勉強会」として、広げていければと考えております。

 

6月については、決まり次第、説明を含めてメールニュースなどでご連絡いたします。

 

今後の、イベントの有無につきましては、念のために事前にホームページにてご確認をいただけるよう、重ねてお願い申し上げます。

 

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清水先生からの資料:

<COVIDと社会>

人間は社会という統計的な構造体をつくることによって、その集まりの力で好ましくない生きもののから自分たちの存在を守ってきたけれど、新型コロナウイルスCOVID―19は、見えない姿で忍者のようにその集まりのなかに入り込んで人びとに死をもたらすことから、大きな恐怖を与えているという趣旨のことを書いた。その後で、人間と居場所としての地球の関係は親鸞が言う「一人(いちにん)のための関係」であることを書いたので、この二つをまとめてCOVIDとは何かを掴んでおきたい。

 

人間の社会を外から眺めると、統計的な原理で動いている構造体のように見え、経済や行事もその統計的な原理によって計画されたり、議論されたりしている。しかしそれだけが社会のすべてではない。社会の中に入り込んで周囲を眺めると、社会は人間にとっての居場所でもあり、そこに「居場所と個人の〈いのち〉の関係」が生まれてくる。それが「一人のための関係」であり、一人ひとりが異なる主体的存在として社会に位置づけられる。「居場所と個人の関係」の一番身近なものが家庭と家族それぞれの関係である。家族は家庭においては主体的な存在として取り扱われ、それぞれ家庭との間で「一人のための関係」をもっている。

 

COVIDは人の〈いのち〉を奪う「天敵」であるが、やっかいなのは、見えない姿で社会に入り込んで、さまざまな居場所を奪い、社会を内側から壊していくことである。だから、統計的な数字が示すより人に与える衝撃が大きいのである。人びとは居場所をつくらず、また居場所へ行かないように、行政から指示されたり要請されたりしているが、それは居場所がすでにCOVIDに事実上奪われているからである。

 

それにしても、なぜ人間はこのように簡単にCOVIDに追い詰められてしまったのだろうか。考えてみると、居場所という生活の実体が社会にあってこそ、それを足場にして統計的な現象が生まれるのであり、その逆は成り立たない。しかし資本主義経済は、その逆に統計的な現象を先行させて、その現象がどこまでも発展的に続くという仮説の上で熾烈な拡大競争をおこなってきた。居場所としての地球のことを考えてみてもわかるように、居場所に対する配慮が欠けているその点を、COVIDに突かれているために、人間は踏みとどまることができないのである。

 

必要になってくることは、逆転している資本主義経済の形を変えることである。それは居場所としての地球と人間の「一人のための関係」から始めて社会を構築していくことである。具体的には自己の〈いのち〉の活きを与贈して、〈いのち〉の足場としての居場所をつくり、それをつないで社会を組み立てていくことである。与贈は、居場所としての家庭をしっかり守ることから始まる。人類が絶滅しないためにも、家庭という生活の拠点をCOVIDに奪われないことが必要になるからである。

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2020年6月1日 場の研究所

前川泰久