福島からの声 2015年6月

今月からの「福島からの声」は、若松丈太郎さんにご推薦を頂きました、藤島昌治さんの詩集「仮設にて」から、連載というかたちで詩をご紹介させて頂きたいと思います。

藤島さんの仮設住宅での暮らしの中から紡ぎ出されるようにして詠われる貴重な詩の一篇一篇からは、原発の問題がどれほどの力で〈いのち〉の居場所を壊し、そこに暮らしてきた人々や生きものたちを苦しめてきたのか、痛いほどに伝わってくるようです。

私たちの未来につながる居場所づくりを、本当に真剣に考えていくのであれば、この詩から伝わってくる、推し量ることのできないほどの深い苦悩の声から、決して目を逸らしてはならないと強く感じます。(編集 本多直人)

 

 


ご推薦の言葉

仮設住宅で暮らしながら詩を書いている方がいます。

 藤島昌治さんです。これまでに『なんじょすっぺ』と『仮設にて』の

 2冊の詩集を出版しています。

 仮設住宅の自治会長をしているので、自分の思いだけでなく

 ほかの人びとの思いも代弁しています。

 『仮設にて』は遊行社、新宿区四谷2−10 八ッ橋ビル4F から

 出版されていて、別に英語の対訳本もあると聞いています。

 おすすめします。(若松 丈太郎)

 

 


三月一一日東日本大震災

 

何だ!

何なんだ!

 

地の底から 聞こえてくる

はらわたを引きちぎるような

無気味な 呻うめき声は

 

突如 大地が裂け

山が呻き

恐怖におののき

逃げ惑う人々

絶叫と悲鳴の後には

瞬く間に瓦礫がれきの山ができた

 

松林の遥か上空を越えて

猛り狂った海が

悪魔と化して 襲いかかる

船が 自動車が 家屋が

押し流され

としよりが 子どもが

津波に呑み込まれる

 

チキショウ!

悔しさと行き場のない憤りいきどおりが

頬を伝う

 

「ドーン!」

今度は何だ

数十キロも離れた

俺のところへ

背骨もきしむ 地響き

原爆が落ちた

脳裏を広島がよぎる

東京電力

福島第一原子力発電所

水素ガス

大爆発である

逃げろ! 逃げろ!

遠く! 遠く!

遠くへ! できるだけ遠くへ

見えない敵

放射能から

一目散に逃げる

一体 どこへ逃げればいいんだ

日本中を

丸ごと揺さぶる

悪魔の所業に

東北は地獄を見た

 

こつ! こつ! と

純朴で

ただひたむきに生きてきた

みちのくの人々が

こんな裁きを受けようとは

思いも寄らぬはずだ

 

だが もう嘆くまい

鋤すきを手に

鍬くわを手に

ひたすら粘り強く

この地をきり拓いてきた

脈々と

受け継がれてきた伝統が

我々にはある

 

負けてたまるか!

負けてなるものか!

 

(手をさしのべてくれた全ての人々に深く感謝して)

 

 

仮設住宅

 

誰か ここから出してくれませんか

あと どの位居ればいいのですか

もう かんべんしてはもらえませんか

 

コンビニの弁当に

カップのみそ汁

何があったわけでもなく

何があるわけもでなく

ただ 今日が終わる

焼酎のお湯割りに

愚痴をかき混ぜて

寂しくなんかないさ と

つぶやく 独り言

 

ボクはもう年をとりました。

 

放射能汚染水

 

他人事のように報じられている

地下貯水槽の水漏れがつづく

もう少しがんばれば

戻れると微かな期待をもった

三年目の春

遠いどこかの出来事のような

思いもよらない汚染水の流失

又 ふるさとが遠ざかる

又 ですか

いつまで待てばいいのですか

もう駄目なんでしょうか

どうすればいいのですか

一体誰のせいですか

答えはどこにあるのですか

汚染水は 好むと好まざるとに

かかわらず 海を汚すでしょう

知っているのなら

教えてください

訪ね先は東京電力でいいのですか

ふるさとが

だんだん・・・